れみ姐さんの小部屋

脳内垂れ流しております。

アイドリング(1)

 「なんでそっち見とるん。」
 彼女は本来であれば苛立っていることをおくびにも出したくなかったが、天気がそうはさせてくれなかった。外は小雨、寒空、暗雲立ち込めていて、尚且つ風は不気味である。
 一方、彼はというと彼女の苛立ちに気付こうともせず、風の向こう側、言い換えると、海の先にある、ネオンばかりを目で追っている。灯りもそろそろ消えようかという時間、昼間は頻繁に往来する船舶も、ちら、ほら、とだけ行き交っている。ネオンを追う、というよりも、ネオンの周りにある闇から目が離せないのだ。手を伸ばせば届きそうで、自分も埋没しているようで、しかしなにがなんなのか絶対にわからないもの。
 はぁ、と彼女は息を吐いた。こうなると彼のタイミング以外には自分が瞳にうつりこむことは不可能であることを識っているからだった。苛立ちを諦め、傘を閉じて車へ戻ることにした。アイドリングのおかげで車中は暖かく、何処かで聴いたことのあるジャズが心地良く響いている。あーしあわせ。そう思って、あのひとはなにをそんなに暗がりを思うのか、ふと頭をよぎったが、思考を止めた。同時に、目を瞑った。

※フィクションです。続きが思い付けば書くし、これで終わるかもしれません。お久しぶりでした。